密/室(仮店舗)

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■Knockin' on heaven's door[3]■

■アン石SS■

作中に原作(特に「黒い仏」)のネタバレを含みます。
その上、色々と捏造あり。
大丈夫、という方は“続き”からどうぞ。









■Knockin' on heaven's door[3]■




「アントニオ、おまえもしかして、ぼくのことが好きなのか?」

 石動が叫ぶようにそう言うとアントニオはさらに大きく目を見開き、たっぷり十秒は絶句した。
 そして、これまで石動が見たことのない噛み付くような表情で、
「は!?」と叫んだ。
 それ自体に驚いたせいもあって石動は無言でアントニオを見つめていた。若い助手は石動を睨み、何か言いかけ、次には天井を見上げ、また何か言いかけ、また石動を睨んだ。そしてまるで絶望したように声を絞り出した。
「…信じられない…!」
 そして部屋を歩き回りながら続けた。まるで大声で独り言を言う舞台役者のようだ。
「好きなのか、ですって!あんなことやこんなことまでして…、好きなのか、ですって?鈍いにもほどがありゃしませんか?好きなのかって、好きでもなけりゃ誰がこんなちびで貧相で小太りでみっともない、中年のおっさん―――」
「何だって!?」
 今度は石動が叫んで立ち上がる。机を迂回してアントニオに詰め寄った。
「おまえ、ぼくのことをそんなふうに思っていたのか!」
「ああ、いや、だから、世間一般の評価の話ですよ!世間ではそうだけどアタシは好きだって話です!」
 即座に言い返そうとした石動が言葉に詰まる。こんな喧嘩腰の告白があるだろうか。
 そのまま徐々に頬を染めた石動を見て、アントニオの頬も朱に染まった。

「ごめんなさい」
 アントニオの腕が石動の身体を包んだ。
「ごめんなさい。今の、大事なのは後半ですから…」
 その腕から逃れようともぞもぞしながら石動がこたえる。
「もう、いいよ。おまえの、考えてることは、よく、わかった」
 が、アントニオは腕の力をまったく弱めてくれない。
「…どっち?」
「色々」
「色々?」
「お前が、ぼくを…ちびだと思ってるってことと、貧相だと思ってるってことと…」
「子どもみたいに拗ねないで下さい。言葉のアヤってヤツです」
「今時日本人でも使わないような慣用句を使うね、おまえ」
「…それでも好きなんですって言ったら、アタシの気持ち伝わります?」
「…」
「好きです。ものすごく―――。貧相で貧乏で、鈍くて、泳げなくて、酒も喧嘩も弱いくせに結構執念深くて、金勘定に汚くて、中年で、なのに」
 アントニオの腕に一層力が入った。少し苦しい。
「大好きなんだって言ったら、わかってもらえますか?」
「…アントニオ」
「はい」
「今の“ものすごく”は、どこにかかるんだ?」
一瞬の間が空いた後、石動の髪の中でアントニオがくすくすと笑い出した。



 ああ、よかった。あのまま出て行かなくて本当によかった。
 石動の体を腕に収めながら、アントニオは安堵のため息をついた。
 もしあのままここを出ていたら、この人は、下手をしたら一生誤解したままだったのだ。何が起因したのかはよくわからないが、思い当たってくれて本当によかった。
 良かったけれど…。
「ちょっと待って…。て、ことはどういうつもりでアタシが、その、したと思ってたんですか?」
 身体を少し離して、顔を見ながら言うと石動は気まずそうに目を泳がせて、
「え―――。あの、それは、まあ」
 とかごにょごにょ言っている。アントニオが目を細めてじっと見つめると観念したように言い述べた。
「あの、寂しいのかなと…。誰か、恋人がいて、その人の代わりかな、とか…」

 アントニオは全身の力が抜けるのを感じた。
 その場に座り込みたい気持ちになる。いや、実際に思わずその場にひざを抱えてしゃがみこんだ。まるで急勾配のジェットコースターに目隠しをして乗せられている気分だ。
 想定外、理解の外とは思っていたが、ここまでとは…。
 取り残された石動は、事態を正確に把握しているのかどうか、おろおろしている。
「あの、ええと、その、ごめん…」
「同情だったんですか?」
 足元から石動の顔を見上げて言うと、慌てて、
「いや!その、それも有ったかもしれないけど、あの、本当に嫌じゃなかったし…」
 アントニオは抱えた膝に顔をうずめて、さきほどとは違う深いため息をついた。

 にわかにすっくと立ち上がると、石動に有無を言わさず口付けた。一瞬の隙をついて深く舌を入れ、それと同時にズボンからシャツを引っ張り出し、わき腹から中に手を入れたら、どん!と胸を押され抵抗された。
「な、何をするんだおまえは、急に!」
 目の周りを赤く染めた石動が手の甲で唇を拭いながら抗議するのを、アントニオが白けたような顔でいなす。
「だってわかってなかったんでしょう?この間の分、埋め合わせしなくちゃ」
「そ、そういうものか!?」
「そういうものですよ。それとも…。やっぱり、嫌だったんですか?」
 少し不安げに訊いてやると、
「いや、あの、嫌じゃなかった、けど」
「じゃあ、問題ないですよね。―――あ、そうだ」
 思いついたように顔をのぞきこんで
「今日は大将のベッドでしましょう」
 とにっこり笑ったみせた。




 往生際悪くまだじたばたしている石動をひきずって仮眠室へ入る。
 仮眠室という通称(といってもそれを使うのはこの世に二人だ)だが、石動が生活の場として 別に借りていたアパートの家賃が払えずひき払ってからは、石動の居室である。
 ベッドが一つと、アパートから運んで来た衣類などが段ボールのまま積まれていて、倉庫というか物置のようだ。

 石動をベッドに座らせ黒縁眼鏡をそっと外してやる。ただそれだけで少しバツの悪そうな、恥ずかしそうな表情をするのがたまらない。
「な、なんだか丸め込まれてる気がするんだが…」
「丸め込んでなんかいないでしょう。理論的当然の帰結です。はい、脱いで」
「わあ!」
 言いながらどんどんボタンを外し、まるで医者のように思い切り良く石動のシャツをはだけた。

 体重をかけて押し倒し、抱きしめると腕を突っ張るようにして身体を離そうとする。
 そのまま耳たぶを甘噛みしてやると、ひゃ、と身をすくませる。
 口付けしようと頬を包めば、その手をそれ以上は禁止とばかりに慌てて掴んでくる。
 舌を差し入れようとしたら、また腕を突っ張って距離をとろうとする。
 ―――?
 とにかくずっとじたばたと、逃げようとしているのだ。
 まるでこれが初めてみたいな…。

 違和感の正体に思い当たる。

 ああ、そうか。
 この人は、今までのキスも愛撫も、自分以外の誰かに施されているつもりで受け止めていたのだ―――。
 胸の奥がきゅっと引き絞られる気がした。
 よく我慢していたものだ、と思う。誰かの身代わりとして“抱かれる”なんて。
 そういう点では多少うぬぼれてもいいのかもしれない。
 この人のことだから、油断は出来ないけれど。

 過日の行為で身体のクセも少なからず心得ていたし、少なくとも一回目よりは相手の反応をうかがう余裕もある。
 相手にはない余裕があるという自覚がアントニオにさらに余裕を生んだ。
 石動の手をとり、やさしく口づけた。驚いたように引こうとする手を離さずにさらに引き寄せる。
 視線を合わせたまま、唇を滑らせ指先を軽く噛む。
 石動の顔がみるみる真っ赤になっていく。
 アントニオは微笑んだ。
 そうだ。
 こうして愛されているのが自分だとはっきり自覚すればいい。





戻る← →続く

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