密/室(仮店舗)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

■NOIR -黒い仏幕間-■

石動さん44歳お誕生日祭前夜祭ー!
(いや、前夜って…)


お茶濁してる感ありありですが!
昨年完売した同人誌の中から再録です。
再録といいつつ、結構手を入れてしまいましたが…。

お誕生日祭用の文章をちまちまといじってはいるのですが(ホントだよ…)、
なんか迷路に入ってしまい掲載に時間がかかるような気がゆんゆんするもんだから…。


※「黒い仏」のネタバレを含みますので未読の方はご注意を。


多少なりとも楽しんでいただければ幸いです…!!“続き”からどうぞ!



 古賀はひとりごちると、石動に向かって右手を上げて、
「石動、シナトラの最高傑作は何だ!」
「<アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン>です。作詞作曲は我らがコール・ポーター」
 石動がうっとりとした顔で答えた。

                      「美濃牛」文庫版402ページ



■NOIR  「黒い仏」幕間■



「だから、大将には手を出すな。大将はあんたとは違う世界に生きてるんだ。あんたみたいな汚らわしい化け物と関わっちゃいけない人だ」

 数刻前の自身の言葉を反芻してアントニオは思わず苦笑を漏らした。
自分はなんと思い上がった台詞を吐いたことだろう。手も触れず、一時に何人も何十人でも人を殺すことが出来る己自身がまるで化け物ではないような口ぶりで。

 小さな障子窓の向こうからはそろそろ朝の気配が忍び込んできている。部屋の闇の色が少しづつだが確実に黒から青に変化しつつあった。
 阿久浜荘の一室に敷かれた二組の布団の間にアントニオは片膝を立てて座っていた。見下ろす石動は安らかに寝息をたてている。
 
 こんなふうに近しく、長く関わった人間は初めてだった。最初はただおかしな人だと思っていたが、いつの間にか自分は警戒心を解いていて、この人が自分の一番近くにいるのが日常になった。
 それだけでもそれは自分の中では大きな、初めての経験だったのだけれど。

 自分の中の何かがさらに変化していた自覚は、あるとき突然訪れた。

 石動が戯れに企画したリゾート計画が社内の企画会議を通ったことを古賀が報告にやってきた、あの夜。
 古賀は「これでおまえも堅気だ」といかつい顔を凄むように歪め(それが笑顔らしいのだが)、高価そうな日本酒の一升瓶を石動のデスクに落とすように置いた。祝杯だ、飲め、そこのおまえ、コップくらい持ってこい。石動の話通り有無を言わさぬ強引さで古賀は祝賀会を始め、企画が通ったこと自体を実は迷惑に思っているらしい石動も抵抗らしい抵抗はせず、各々の思惑はともかく、宴会となった。
 高価そうな日本酒のほとんどはその購入者によってあっと言う間に消費されたが、古賀はまったく酔った素振りもなく、ただほんの少しだけ機嫌よさげな顔になって帰って行った。
 いいか、石動、ツルシでいいから背広を買え、次にアセンズ建設に来る時はネクタイを忘れるな。そう厳重に言い付けて。
 一方酒に弱い石動は、ほぼ強要されて口にした一杯、二杯ほどの酒が充分に効いているようだ。頬が紅潮し、受け答えが少し緩慢になっていた。
「結局、あの人がほとんど飲んじゃいましたね」
「うん…。昔から強いんだよ、先輩は」
 使われたコップやつまみの空き袋を始末しようとするアントニオの横で、石動が大きくため息をつきながら言った。
「ぼくは日本酒、弱いんだって学生の時から言ってるのに…」
 ああ、頭がぐらぐらする、と続ける石動を何の気もなしに見た。コップに残った酒はどうするのがいいのか。飲みきるのか、廃棄するのか。そう訊ねようと目線を移しただけだったのだ。
 石動を目にした途端、心臓が勝手に跳ね上がり、束の間全ての音が消えた。
 何を、感じたのか。
 「思考」したのではない。それ故に「だから」も「でも」も無かった。
 ほんのり上気した頬と首筋、まるで泣いた後のように赤くふちどられた目、無防備にとろんと潤んだ瞳に、目を奪われた。

 情事の後、こんな顔をするんだと直感した。

 いや直感してしまった、のだ。それが真実かどうかはどうでもいい。
 その直感と同時に、その情事を共有するのは自分でありたい、この人にこんな表情をさせるのは自分でありたいと欲していた。
 取り込まれた、と思った。
 いや、逆だ。
 侵入(はい)られたと思った。

 人は密室を抱えて生きている。いや、人そのものが密室なのだ。
 外から他人が何を入れようとしても入らない。入れられない。入れようとしても、入ろうとしても不可能だ。そして中のものを他人が外から手を入れて出すことも。

 アントニオの密室は、今や石動がほとんどのスペースを占拠している。入れようとしても入ろうとしても不可能なはずの、その密室。きっちりと鍵がかけられ、紙の一枚、通る隙間の無いそこに、石動がきょとんとした顔で立っている。まるで石動の大好きな不可能犯罪のように。
 自分はがらんどうだった、とアントニオは思う。今でさえ、石動以外は何もない。それ以前にはまったく、何ひとつ存在しなかった。光も、闇も、音も、声も。何もないから、他人に言われて、あんなに簡単に、あんなことが出来たのだ。


 出会った頃に感じた石動の中身は、一言で表すなら「清潔」だった。
 底まで見通せる透明な水が、淀むことなく流れている、そんな印象だった。そういう人間は珍しい。大抵は何かあるものだ。隠したいこと。そうせざるを得ないこと。それが人の中に影を作る。影を作る何かを作る。そしてその影に、大小の差はあれ、澱みが生まれるのだ。
 それが普通の、人間のあり方だ。いや、それが人を作っていると言っていい。
 石動にはこの澱みが感じられなかった。かと言って清廉潔白、崇高な人間というわけではないが、己の弱さやずるさ、それを取り繕い隠そうとする意思が感じられなかったのだ。回転の速い、優れた頭脳を持ちながらにしてまるで動物のような―――珍しい、面白い―――そして好ましい人間だと思った。

 それだけだった。あの夜までは。


 慣れない重い布団が暑苦しいのか少しだけはみ出させている石動の足首をアントニオは凝視していた。徐々に青みを失い白々とした朝の光がぼんやりと照らす薄暗がりの中に白く浮かぶ足首があまりにも妖しく映る。まるで誘うように。冷たく白いこの肌が人の温もりを待ちわびているかのように―――。
 違う、とアントニオは目を閉じ深く細く息を吐いた。
 深く細く息を吐ききることで、知らないうちに己の呼吸が速く、浅くなっていたことを自覚する。こうして石動の肌に引き寄せられるのは自分が確かに欲情しているからだ。浅い呼吸と下半身に溜まった熱が己の欲望をアントニオに自覚させ、その自覚がさらに熱を煽る。星慧との邂逅で神経が昂っているせいもあるのだろうが…。
 アントニオはもう一度、胸の深くまでゆっくりと息を吸い、殊更にゆっくりとそれを吐いた。そして、頭を一つ振り、こういう時の対処法は心得ているはずだろう、と己の理性に語りかけた。


 安らかな寝息と規則正しく上下する胸。
 高田馬場のあの事務所で、何度寝室に忍び込み、何度、それを思いとどまったか。
 何度その寝息の近くまで唇を寄せたことか。
 何度その肌に食いつこうと思いつめたことか。
 焼き切れそうな感覚。
 この人の肌はどんな味がするだろう。
 どんな息遣いで震えるのだろう。
 その瞬間、どんな声をもらすだろう。

 ―――自分が、同性にここまで欲情するとは、知らなかった。

 この人を絶対に汚させない、などというどこか子供じみた、だがその分強い決意、意志のすぐ隣に、全く同じ真摯さで、今すぐにでも自分を、自分だけを刻み付けたいと咆哮をあげる欲望がある。
 そのどちらにも嘘は無かった。

 そんな葛藤を繰り返す夜をいくつも越えて、獰猛な劣情を飼いならしてきたのだ。これまでに出来て、今、出来ないわけがない。
 そしてその葛藤が激しいものであればあるほど、あるいはその記憶を呼び覚ますたびに、自分が今どれほど石動に焦がれているかを思い知るのも、毎回のことだ。


「だから大将には手を―――」


 まったく同じ理由で。この人はアタシのものにはならないのだから。

 ただ、何よりも。何よりも。
 どうかこの人が幸せでありますように。
 そのために自分が出来ることならなんでもしよう。
 この人のためにだったら、もう一度力を使うことも厭わない―――。

 (ああ、まただ。また、アタシは―――)
 ふと独善的な傲慢さに気付き、そう思う自分を嘲笑した。
 少し油断すると自分はこうして思い上がる。
 この人の幸福のために自分が必要であるかのような、自分がまるで善きものにでもなったかのような、思い上がり。
 星慧と石丸を化け物と断罪した刃が己の身を切る。彼らと自分を比べたら、どういった種類のものであれ、欲もなく自我もなく、ただ言われるままに、いやむしろその行為自体を楽しんで行ってきた自分の方が、よっぽど下等なのではないか。その思いに行き当たって、アントニオは思わずきつく目を閉じた。

 忘れるな、とアントニオは自分の密室に語りかける。諭すように。いや、命じるように。
 この人が幸せでありますように。
 この人が、幸せで、ありますように。
 ただそれだけを願えばいい。祈ればいい。それだけを目的に生きていけばいい。
 自分も一緒に幸せになろうなどとは―――思わない。


 障子窓の向こうはすっかり朝を迎えているようだったが、まだ石動が目を覚ます気配はない。もう一度、今度は静かな瞳でその足首に目を落としたアントニオは、うやうやしいともいえる所作で、両手でそっと石動の足を包み、そのままひれ伏すようにしてそこに口付けした。

「…ん、…」
 石動の体が微かに震え、アントニオは身を起こした。その時―――、石動の枕元で携帯電話がコール・ポーターを奏でだした。「アワーズ」だ。
 無駄の無い動きで、音を立てずにアントニオは隣に敷かれた冷えたままの布団にするりと入り込み、しっかりと目を閉じた。
 隣の石動の布団がごそごそと音をたてている。次いで、畳をべたべたと叩く音が聞こえ、やがて石動の、いかにも寝起きの態の声がした。
「もしもし…」



 通話を終えた石動は布団をはねのけ仁王立ちになり、隣のアントニオを文字通り叩き起こした。
「起きろアントニオ!すぐ安蘭寺へ行くぞ!」


                               END.


なんか読みにくくてスミマセン…。

2008年の冬コミに発行した「NOIR」からの再録(でも結構直した)です。
で、多分今書いたらアントニオの心情もちょっと違うな…と思います。
まだまだ、掘り下げが足りない…!
うあー、ホントこの二人は面白いよね…!!!(暴走)
と、改めて興奮しつつ、当時のあとがきも再掲載。↓

直前に「美濃牛」での古賀先輩と石動さんの会話が挿入されているのは、
この原稿をやりながらたまたま行き当たった「I`ve got you under my skin」の歌詞が、
今回書こうとしていたアントニオの心情(無論私が想像するところの、ですが)にぴったりだったからです。
<同人誌では歌詞そのものは掲載出来ないため、ここでこんな内容ですみたいなことを書いていたのですが、
 ネット素晴らしい!参考にしたサイトさんへのリンクが(こっそり)貼れます!
 こちらです(コピペでGO!)→ http://d.hatena.ne.jp/wineroses/20070207 >
これをきっかけにコール・ポーターについて色々調べてしまいました(その生涯は映画にもなっています)。
しかし今回一番知りたかった件の着メロ「ours」の日本語訳だけは
ネットの海にも見つけられませんでした…(私の根気が足りないだけかも)。
つうか、コール・ポーターの数々のナンバーの中でも
割りとマイナーな位置づけの曲(?)なのではないかと思うのですが、
(だからこそあそこで使われることに何か意味が有るのではと勘繰って、歌詞が知りたかった)
よく着メロが有ったね、石動さん…。
今回探してみたけどこれも見つからなかったです…。



予告。
明日、同じ本に載せた「黒い仏その後」というオマケを再録します。
オマケなので超短いですYO。

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。