密/室(仮店舗)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

■death on the belly■


バカップルwwwww。

でも石動さんが「キマイラの新しい城」で、マント姿のアントニオを「颯爽としている」と評したのは公式です。
私悪くない。

タイトルはアガサ・クリスティの「雲をつかむ死(Death in the Clouds)」のパロディ。
bellyは腰、ということで、腹上死のイメージで。


“続き”からお願いします。


■death on the belly■


 アントニオは馬鹿だ、と石動は思った。
 馬鹿、というと語弊があるかもしれない。記憶力はいいし、頭の回転は速いし、なかなか気も利く。そういう部分では逆に頭がいいと言っていいだろう。
 でも、と石動は思う。
 ちょっと、感性がおかしい。
 例えるならば、世間の多くの人が特に価値を認めないもの(お菓子の空き袋とか)を、多大な労力と莫大な資金をかけて収集するコレクター、だろうか。
 自分より遥かに年上のこの中年男をつかまえて、あろうことか、「かわいい」と評価する。
 ちょっと、感性がおかしい。
 まさか今更日本語の意味を取り違えているとも思えないので、かわいいわけがないだろう、と言っても、絶対にかわいい、と言って譲らないし、逆にこっちが百歩譲って、おまえにそう見えるのはもう不問にするにしても、それは日本の諺で言うところの「あばたもえくぼ」というヤツで、世間一般の評価とはかけ離れているのだ、それを自覚しろと言ってもまったく聞き入れない。
 これまでの人生での容姿に対する他者からの評価のアベレージをいやというほど自覚している石動は、そんなアントニオに苦笑せざるを得なかった。
 頭は悪くないはずなのに、どうしてそう客観性というものが無いのか。普段はなかなかに聡い助手の思考回路が一部ショートしてしまっていることを石動は惜しいと思った。



 石動は電話を置くと、短く息を吐き出した。依頼された「調査」の関係者との面会のアポイントをとる為の電話だ。
 本来ならこんな「身辺調査」「浮気調査」など名探偵の仕事ではない。だが、名探偵だって人間だ。口に糊するためには、気乗りのしない依頼も受けなければならない。事務所の家賃も先月から滞納していることだし…。

「会えそうですか?」
 この世の世知辛さを憂いていた石動の前に、アントニオが熱いインスタントコーヒーを置いた。インスタントではあったが、立ち昇る独特の芳香が落ち込んだ気持ちを癒してくれる気がした。
「うん。明日、店が始まる前だったら会ってくれるそうだよ。夜の九時に開店だそうだから…。七時くらいに行けばいいかな」
「夜の九時に開店?居酒屋か何かなんですか?」
「いや、ゲイバー。電話口では普通の男言葉だったよ」
 石動はカップを口に運びながらくすくすと笑い出し、自分の言葉にアントニオが眉をしかめたのに気付かなかった。
「興味深いね。開店時間が来るとスイッチが入って女言葉になるのかな」
「そこ、アタシがお話を伺いに行きますよ」
「おまえ一人で?珍しいことを言い出したな…。でも、いいよ。その場で聞きたいことも出てくるかもしれないし」
「行く先に問題が無ければアタシだって行きたくないです」
「問題って…」
「狼の前に羊がのこのこ出掛けて行くようなものでしょう。何をされるかわかりませんよ」
 ―――狼?―――羊?思わず笑い出しそうになるが、助手の真剣な表情から察するに、それは冗談ではないらしい。冗談ではないのなら、
「何もされるわけないだろう」
 呆れたようにそう言ってもアントニオは全く表情を緩めずに、かえってデスクに詰め寄るように近付いて言い募る。
「頼むから出されたものホイホイ飲んだり食べたりしないで下さいね。もし何か混入ってたら、動けなくなったところを襲われるかもしれないし…」
 ああもうまた始まった、と石動はわざとらしく大きなため息をついて、
「そんなこと心配するのはこの世でおまえだけだ。何度言ったら―――」
 アントニオはそのせりふの最後まで聞かず、意趣返しのつもりか殊更に大げさに、やれやれといったふうに頭を振って、
「大将こそ、ちゃんと自覚してください。あなたみたいないやらしい人は、すごく人の劣情を刺激するんだから…」
 毎度の攻防だと聞き流そうとしたその言葉の中の聞きなれない一フレーズに血が凍る思いがし、思わず叫んだ。
「待て…!い、いやらしいってなんだ…!」
「いやらしいでしょ。エロいっていうのかな。見てると、その、色々したくなります。あなたすごく敏感だし、ちょっとじらすと泣いちゃうし…。その時の顔とか声とか…」
 石動の顔が、今度は熱湯に突っ込んだ温度計のようにみるみる赤くなっていく。
「そんなこと知ってるのもこの世でおまえだけだ!」
 だいたい、あれは断じて“ちょっと”じゃない、と思いながら再び叫んだが、その言葉に少し小首を傾げて石動を見つめ返すアントニオの目の色が、微妙に変化したことに気付いて、石動は戦慄した。
 アントニオの右手が石動の左手に吸い付くように重なる。
「っ…!」
 その手を凝視し、石動が唇から悲鳴とも呻き声ともつかないものを漏らすと、アントニオは下から窺うように石動の顔を、慄く瞳を覗き込み、慈しむような微笑を浮かべ、
「見たくなりました。あなたの、泣き顔」



 言葉通り泣かされた。
 喘がされ、弱いところばかり触れられ、擦られ、なのに堪えさせられて、涙を零して懇願した。その時には、もう自分がどんな声を上げて何を言っているのかすらわからなかった。
 極限状態だったのかもしれない。石動は自分の頭がずきずきと痛むのを感じた。
 これは酸欠の症状じゃないのか。あのままさらに喘がされたら死んでしまうんじゃないのか。
「頭が痛い…」…
 呟くと、石動の肩が冷えないように、首元まで毛布をかけようとしていたアントニオの手が止まり、心持ち顔を近づけてきた。
「え?」
「あんまり…」
 きちんと発声したつもりが、声が掠れていて驚く。石動は一つ咳払いをして、
「酸欠で頭が痛い。あんまり無茶しないでくれ。腹上死なんてことになったら世間に何て言われるか…」
「何て言われるんです」
 もういつものにやにやした顔に戻ったアントニオが面白そうに訊ねる。
「…男やもめの中年が身の回りの世話をしてくれる女性もいないが故に男に走って、あげく年甲斐もなくベッドでの頑張り過ぎが祟り、腹上死。きっと新聞に載るぞ」
 アントニオはとうとう愉快そうにくすくすと笑い出し、
「はあ。それは避けないといけませんね。名探偵の名に傷がつきます―――。残されたアタシも同じように謗られるわけですし」
 それも楽しそうだとでも言わんばかりの口調で続けられたアントニオの言葉に、
「おまえは大丈夫だよ」
 いつまで経っても、何度経験しても、情事の後の体力の消耗は著しい。忍び寄りやがて身体を包み込むほどの睡魔に襲われていた石動はかけられた毛布の中で緩慢に体を捻り、アントニオに背を向けながら応えた。
「…どうしてです?」
 今度は自分の体を足元の方向へ滑らせ、毛布に収めようとしながらアントニオが訊くと、ほとんど眠りの国のドアをくぐろうとしている石動のぼんやりした声が応える。
「…かっこいいから…」
 閉まりかかった眠りの国のドアの、細い隙間に残った意識で石動は思い出す。
 シメール城でのコスプレごっこの時だって、マントを着けたアントニオは結構颯爽としていてカッコよかったのだ。
 ―――悔しいけど。

「―――」
 一瞬息を飲んだように動きも声も止めた後、弾かれるように笑い声をたてたアントニオが、覆いかぶさるようにして毛布ごと石動の体を抱きこんだ。ほとんど閉まろうとしていたドアが突然全開にされ、現実に引きずり戻される。
「うわ、なんだよ、もう…」
 毛布ごとしっかりと抱きしめられ、笑いとからかいを含んだ声が耳元で囁かれた。
「大将。あばたもえくぼって諺、知ってます?」
 言い終わってからも笑いがこみ上げてくるようで、アントニオは石動の首元に顔を埋めたままくつくつと笑い続けた。アントニオの言わんとすることに気付いて、石動の顔が赤く染まる。
「ば、馬鹿、おまえがいつも言ってるのとは全然違うだろ…!ぼくが言ってるのは、客観的な基準で判断した上での評価で…!」




 さて。
 どっちが馬鹿か。




PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。