密/室(仮店舗)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

■Door to heaven?■


片思い中アントニオの受難三連作wの一。
天国で(and条件)地獄シリーズともいう(私が言ってるだけですが)。

当時一作めのドラマを放映していた「臨場」の原作にこういうシーンがありまして。
(無論男女ですが)
石動さんも張り込めばいいじゃない!カモフラージュすればいいじゃない!と興奮して書きました。



■Door to heaven?■


 ラブホテルの脇、車が一台やっと通れる程度の細い路地を進んで左に折れ、ちょうどホテルの裏手になる袋小路に車をとめる。ここでの「張り込み」も今日で三日目だ。
 ホテルの裏はちょっとした雑木林になっている。雑木林といっても申し訳程度のもので、少し視線を動かせば、林の向こうを観察するのにはもってこいだった。
 林の向こうには小さな木造アパートがひしめきあうように建っており、その建物と建物の間に多少見栄えのするハイツ山倉302号室の窓が見える。その302号室の住人山崎洋二郎の帰宅時間を一週間調べて欲しいという依頼を受けたのが先週だ。本来ならこんな、興信所がやるべき仕事を請け負いたくはなかったのだが、今月の家賃の支払日が近付いたことに気付き、やむなく引き受けた。
 エンジンを切りライトを消してシートを最大限まで倒す。「張り込み」の基本だ。今日は月明かりが明るいので「張り込み」には向かないが、この雑木林がカモフラージュしてくれるだろう。
 仕事自体は単純だが山崎の帰宅時間がまったくもって不規則なのが面倒だった。未だ明かりの点かない窓をぼんやりと見つめながら、石動はあくびをかみ殺す。
「なあ、今何時だ?」
「午前一時十分です」
 こんな会話でも無いよりは有った方がいい。ラジオも聞けない、本も読めない状態で一人では退屈するのが眼に見えていたし、大体雇い主が寝る間も惜しんで働いている時にのうのうと事務所で安眠されるのは癪だったので、最後までしぶるアントニオを同行させたが、それは正解だったと思う。

 背後の路地からエンジン音が聞こえ、ハッとした。路地からの人工的な明かりがだんだんと大きく、強くなっていく。背後の暗闇が白くなる。
 バックミラー越しに見つめる塀の角から現れたのは煌々とヘッドライトを灯したパトカーだった。
「うわ、面倒だな。絶好の張り込みポイントだったのに…」
 バックミラーには、懐中電灯を手にパトカーから降り、ゆっくりと警戒しながらだが近付いてくる一人の警官の姿が映っている。
 職務質問は免れない。うまく誤魔化せば留置所入りはないだろうが、即刻ここを立ち退かされるのは確実だ。今からハイツ山倉を観察出来るポイントを探すのは不可能に近い。最悪の場合はアントニオだけでも周辺へ張り込ませて…。
 そこまでを計算していると、突然隣から黒い影がゆらりと倒れこんできた。反射的に支えようとしたが、シートを倒しているせいで支えの無い石動の体は体勢を崩した。
「?アントニオ…?」
 倒れこんできた影はさらに力と重さを増し、そのまま石動の身体を押さえ込むように圧し掛かってきた。平らのシートに押し付けられる形になる。急に具合でも悪くなったのかと思ったが、突然腰の後ろに腕をつっこまれ、もう片方の手で腹やら胸やらをまさぐられるに至って、頭の中が疑問符でいっぱいになった。石動は思わず抗議の声を、小声であげた。
「おい!なにを始めたんだおまえは…!」
 押しのけようと力を込めると、それを封じるようにさらにぐっと身体を押し付けてきて、
「アタシの背中に手を回して下さい」
「え」
「早く」
 耳元で鋭く言われて、慌ててアントニオの背中を抱いた。言ったアントニオは石動の身体を抱きしめ、まさぐりながら怪しい律動を刻んでいる。
 懐中電灯の白い光がざらりと車内を舐めた。
 無限とも感じた一瞬の後、遠ざかる足音を聞いた気がした。それでもはっきりと車のドアが閉まり、タイヤの音が聞こえなくなるまで石動はアントニオの背中に縋りつき、アントニオは石動の身体の上から動かなかった。

 月明かりと静寂が戻った。張り詰めていた身体と神経が弛緩する。

 もう石動にもアントニオのした事の意図がわかっていた。
 例えどれだけ怪しい場所に車を乗り入れていようと、同性とはいえ、カップルの睦み事には警察も甘い。そういうことだ。この助手の回転の速さには時々舌をまく。
「おまえの機転で助かったよ…。ありがとう」
 言葉ではそう言いつつも多少のいまいましさと自分の鈍さに恥じ入る気持ちで、盗み見たアントニオの横顔は、意外にもまるで怒っているようだった。得意気ににやにやしているに違いないと思ったのに。
「テレビドラマで見たんです」
 そっけなくそう言って、ドアに手をかけ、
「ちょっと休憩してきます。すぐ戻りますから」
 こちらに顔も見せずに車外へ出て行く。
 なんだ、せっかく褒めてやったのに―――。
 不機嫌そうなアントニオを呆れ顔で見送ったところで我に返った。この数分、窓を見ていない。慌てて窺ったハイツ山倉302号室の窓には何の変化もなく石動は安堵のため息を漏らした。
 気持ちに余裕が出たからか、さきほどのアントニオのつっけんどんな態度も許してやろうか、と思う。
 咄嗟のこととはいえ、こんな“オジサン”を“抱きしめて”しまったんだから、そりゃあ嫌な気分にもなるだろうな。
 そう思い直して、苦笑した。本当ならこのホテルの中にいる若者(だけではないかもしれないが)と同じように彼女の一人も欲しいだろうに。アントニオが戻ってきたら、大人としてまた雇い主として寛容なところを見せてやろう―――。

 なんの装飾もないコンクリートの高い塀に沿って歩き、先ほどパトカーが現れた角を曲がる。石動の車が見えなくなったところで、アントニオは詰めていた息を大きく吐いて体の向きをかえ、石動から身を隠すようにして塀に寄りかかった。天を仰ぐ。暗い夜空に小さな光が瞬いていた。眼を閉じて深く息を吸う。そしてまた大きく吐き出しながら、なげやりな様子でしゃがみこんだ。

 覚えてしまったじゃないか。
 あの人の身体の弾力。重み。
 髪の生え際、うなじからかすかに匂う汗のにおい。
 耳元で、詰める息。

 まさに今味わったそれを生々しく反芻しかけてアントニオは頭を振った。

 これからもあの人の隣にいなければならないのに。
 事務所へ帰って寝る時だって、ドア一枚向こうにあの人がいるというだけで眠れない日があるというのに。
 同性なのだから当然といえば当然だが、あの人はまったく無邪気に無用心に、自分のこんな劣情になど思いもよらず、無防備な姿を見せつけてくる。
 耐えるにしても限度がある。自業自得とはいえ、そこへこんな刺激を受けては―――。
「地獄だ…」
 そう呟いた時、寄りかかった塀の先で何かが焼き切れるような音がして、通りに掲げられた電飾看板の光が瞬いた。
「HOTEL door to heaven」
 うらめしげにそれを見つめたアントニオは、この短い時間で数度目の深いため息をついた。






PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。