密/室(仮店舗)

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■Tower to heaven■


片思い中アントニオの受難三連作wの三です。
(片思い中のアントニオにとって)天国で(and条件)地獄、天国なのに地獄というシチュエーションを目指して書いた三作でした。

ウチの石動さんは…
非道いなあ…(しみじみ)

この三連作を掲載した本「Faii into heaven」は我が心の友ドコモ高橋氏に捧げたのですが、
そのドコモ氏から
「アントニオwwwwwがっつきすぎですwwwww」
との感想をいただいたことをここに記しておきますw。


では本編は“続き”からお願いします。


■Tower to heaven■


 まったく昨夜はひどい目に遭った。
 冬の夕暮れは短い。刻々と夜を迎えようとする大阪新世界、通天閣への入場列に並びながら、寝不足の頭をもてあましつつ、アントニオは回想した。


 石動が大阪に出張すると言い出した時、自分は当然高田馬場に残るつもりだったし、石動もそのつもりだったはずだ。依頼主が御大尽で旅費や宿泊費など全て二人分出すと言い出すまでは。俗に言う「お車代」だ。必要充分以上の金額を必要経費として提示された。そこで手打ちにしてくれればいいものを石動は、実費の節約の為にツインの部屋をとると言い出した。
 ―――まったく、天下の名探偵が吝嗇なことですね―――。
 石動の貧乏根性を諌めプライドを刺激する物言いで、なんとか思いとどまらせようとしたが、アントニオが抱えた問題など知る由もなく、妙なところで小銭にうるさい彼は結局それを押し通した。思ったとおり、その問題ゆえにアントニオは一晩中眠れなかったというわけだ。高田馬場の事務所との物理的な違いはドア一枚、壁一枚だけなのだが、アントニオにとってその違いは天と地ほどのものだった。
 まず、目を閉じても一晩中寝息が聞こえる。そして時折打つ寝返りの度にシーツや浴衣の衣擦れの音も耳に入る。非常に生々しいそれらの音は、すぐ近くに彼の肉体があることをいやがおうにもアントニオに意識させ、その度に彼の心拍は激しく乱れた。
 おまけに、そっと石動に目をやれば、効きすぎた空調のためだろう、毛布を大きくはだけ、その身の浴衣まで胸元を大きく開いていた。アントニオはぎょっとし、その心臓はさらに激しく暴れだした。

 でも、放ってはおけない―――。
 見て見ぬふりを決め込もうかとも逡巡したが、今は二月で冬の盛り、明け方の冷え込みで彼に風邪をひかせたくなかった。そう、浴衣は直せないにしても毛布をきちんとかけてやり、空調を弱めてやらなくてはいけない―――。 未だ治まらない己の鼓動を持て余しながらアントニオは石動のベッドの脇に立ち、彼の毛布を直し始めた。
体の下敷きになっている毛布を静かに注意深く引き出していく。フットライトのみで淡く照らされた石動の体は間近で見るとさらに艶めかしく、それを意識した瞬間己の鼓動がさらに煽られ、次いで呼吸が荒くなるのを自覚しないではいられなかったけれど。
 己の衝動と、石動の体重との戦いが終わり、アントニオは思わず安堵のため息を吐いた。あとは空調を弱めて―――。石動のベッドの脇に立ったままその調整盤を探して室内を見回した時、
「アントニオ…」
 普段より幾分甘やかな声で囁くように名前を呼ばれたのだ。



 石動の寝癖のついた頭がひょこひょこと左右上下に動いて列の前方を窺う。
「結構混んでるなあ。新幹線の時間に間に合うかな?」
 御大尽の依頼の件は簡単な判じ物で、金持ちの道楽の範囲だったようだ。「東京から探偵を呼んだ」という事実が必要だっただけで、石動にお声がかかったのは「その程度のことで東京から大阪までのこのこやって来る職業探偵」が有限会社ダム・オックスへの連絡を付けるまで一人もいなかった、ということらしい。
「通天閣、ですか。天に通じる塔ってわりに低い建物ですね。そんなに有名なところなんですか?」
「おまえは知らないだろうけど乱歩の傑作「黒蜥蜴」のワンシーンの舞台なんだ。中学生の頃読んでシビレタなあ。まあ当時は改築前の姿だったろうけど…」
「へえ。大将みたいなミステリマニアが大阪にはこんなにいるってことですか」
「いや、そういうわけでもない…と思うけど」
 こんなに混んでいるとは石動にも予想外だったらしい。



「アントニオ…」
 誘うようにそう呼ばれて、驚きと喜びと困惑が湧き上がった。―――無論それに蓋をする「そんなはずはない」という理性も持ち合わせていたが。恐る恐る視線を落とすと、彼の想い人は案の定すやすやと眠りこけていて、全身の力が抜けた。
 まったく、この人は―――。
 それがアントニオの衝動に全く気付いていないが故であることが、救いなのか試練なのかわからないが、時々仰天するようなタイミングと方法で彼の衝動を煽る。
 安らかな寝顔を少し忌々しげに見やると、やっぱり夢を見ているらしい。再び唇が軽く喘ぐように蠢き、アントニオの視線はそこに釘付けになった。



「割引?」
 どう考えてもこの平成の世で、通天閣がこんなに混んでいるわけがない―――。そう考えた石動はアントニオに一言列を離れるなと釘を刺してから、列前方へと歩き、列の整理をしている係員の女性に声を掛けた。
「はい、入場料を半額にさせていただくキャンペーンで、二月二十八日までの期間限定です」
 制服のようなものを着た女性にハキハキとそう答えられ、さらに前方を窺えば、入場口の横に、なにやらピンクの看板のようなものが立っていた。
「へえ…」
 石動はそれを見てこずるそうににやりと笑うと、既に背を向けかけた係員を追いかけて、さらに熱心に質問を始めた。



 うっすらと開いた唇から白い歯が微かに覗いている。
 石動の安らかな規則正しい寝息と、自分の馬鹿げて大きく聞こえる鼓動、気付けばまた荒くなっている呼吸音が入り乱れて耳に届く。
 ―――このままこの唇を塞いでも自分だけの秘密で済むのではないか―――。
 悪魔的な発想が思考を占め始めていた。手のひらを石動の鼻先でゆらゆらと振ってみるが、皆目目覚める気配もない。自分が意識しているより早くアントニオは石動の顔の上に徐々に上体を近づけていた。
入り乱れて聞こえたサウンドのそれぞれの音がそれぞれにボリュームを上げていく。このまま、ほんの一瞬、その唇に触れることが出来れば―――。

 まるで長い間潜水でもしていたかのように、アントニオは石動から体を離し、大きく息をついて頭を振った。
こういう欲望はエスカレートすることに思い至ったからだ。
 石動への衝動、劣情に気付いた頃は、彼を想ってする自慰行為が後ろめたかった。自身の欲望に都合よく妄想の中の石動を捏造することにためらいも有った。それは禁断の行為であるはずだった。
 だが、今やどうだろう。それを己に、なし崩し的に赦した日から妄想の中身はエスカレートしつづけている。一線を越えてしまえば堕ちるのはまさに滑り落ちるように早い、そういうことだ。間違いなく、ここはその境界線の一つであると思う。これを越えてしまったら、次の線(ライン)がどこなのか想像するだに恐ろしい。だから―――。
 意識的に大きく息を吐いて、アントニオは自分のベッドに戻り、石動に背を向けて毛布に潜り込んだ。
 しかしそれでも、その誘惑はアントニオをすんなりと解放してはくれなかった。
 あの唇の感触を自分の唇に覚えさせたい衝動は、波のように高まり、引き、アントニオを攫うほどの大きさで襲来し、明け方まで彼を翻弄し続けたのだ。



 思い返すだけでも辟易する。
 まったく昨夜はひどい目に遭った―――。
 寝不足だけでなく、精神的な葛藤を長時間続けたせいでアントニオはひたすら疲弊していた。ともかく高田馬場へ帰ればもう少しマシな状態で、今日はぐっすり眠れるに違い無い。今はただそれだけが望みだった。

 列の前方からせかせかとした足取りで石動が戻ってきた。何故かにやにやと笑っているようだ。
「何かわかりました?」
「ん?入場料半額キャンペーン中だそうだよ」
「ああ、だからこんなに混んでるんですね…」
 あまりにも疲弊していたアントニオは、この時石動が何かを企んでいることに気付かなかったし、列が進み、チケット売り場と共に近付いてきたピンク色のブースで何が行われているかにも全く注意が向かなかった。
 だからチケット売り場で係員から、
「お二人様ですね。キス割、お使いになりますか?」
 と言われた時も、何を言われているのか理解出来なかったのだ。その瞬間、場に流れた妙な空気にも気付けなかった。我に返ったのは石動が「はい」と元気よく応え、アントニオの手を引いてピンクのブースへ向かった時だった。
「大将?」
 ピンクのブースのピンクのハートの上で正面に陣取って向き直る石動の顔には、悪戯を思いついた子供のような笑みが浮かんでいた。
 ―――え?
 石動の手が両側からアントニオの頬を包み軽く下を向かせ、間髪入れずにその顔が近付いてくる。触覚と視覚から脳に流れ込んでくる情報が多すぎて一瞬で回路がパンクした。

「これで半額になるんなら、ありがたいよなあ」
 気付けばチケット売り場で既に二枚のチケットを購入したらしい石動は、意気揚々とみやげ物売り場をエレベーターへ向かっていた。惰性でその後を追おうとしたアントニオだったが、どうにも足取りが覚束ず、よろよろとみやげ物売り場の片隅に膝をついてしまった。

 妙に生々しく憶えているのは、石動の閉じた睫毛の近さと、軽く触れた唇の乾いた温かさだった。耳鳴りがするほど鼓動が激しい。アントニオは思わずそのまましゃがみこみ、両腕で膝を抱え、そこに顔をつっこんだ。
「アントニオ?」
 一旦はエレベーター前まで辿り着いた石動が、アントニオの様子を訝しんでか早足に戻ってくる気配がする。
「どうした?」
 アントニオのすぐそばに石動もしゃがみこんだようだ。
「えーっと…。そんなに、その、イヤだったのか?ふざけて男同士でキスするなんて、よくあるだろ?」
 まったく何も知らないで。何も知らないくせに、こんなことをするなんて。悪魔のような人だ―――。
 その悪魔はアントニオの様子におろおろしているようだった。
「もしかして、おまえ潔癖症の気がある…とか」
 昨夜あんなに必死に堪えた一線をこの人ときたら―――!

「ご、ごめんな、まさかおまえが、そういうタイプだとは思わなくて…」
 突然、膝に顔を埋めたままのアントニオの右手が伸びて、強く石動の腕を掴んだ。
「びっくりした、だけ、ですから」
「へ?…あ、ああ…、そうなのか…?でも…」
「びっくりしただけです。だから」
 なおも顔を埋めたままアントニオは続けて、
「今度から、予告してもらえると、助かります」
 石動は気付かないが、長い髪から垣間見えるアントニオの耳朶はこれ以上ないほど赤く染まっていた。








キスしたら入場料半額、は実在の企画でした。↓
【大阪 通天閣】
チュー天閣 キス割 ~キスして半額~〇九年二月七日~二月二十八日
夜間営業を昨年十一月から始めてから来場者数が増えている。
大阪の新たなデートスポットにとバレンタインデーに合わせて企画した。
午後6時~最終午後8時半の入場者が対象になる。
キスは口と口で、ほっぺたや手の甲では駄目。
同性同士はOKだが「風紀上」の理由から高校生以下はNG。





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