密/室(仮店舗)

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■UCC■

■アン石SS■


オリキャラが出てきます。
苦手な方は回避回避!




■UCC■




「アンちゃんか!?」
「は?」
 各局のチャンネルが一日のニュースを報道し、深夜番組に切り替わる時間帯。とった受話器から飛び込んできたのは明らかに酔っ払った男の声だった。
「…ああ、八百正のご主人ですか」
「ご主人!そう、ご主人様ってやつだ。…うるっせえな、今から言うんだよ、ちゃちゃ入れんじゃねえよ」
 酔っ払いの周りには酔っ払いが多数いるらしい様子がありありと伝わってくる。

「あんたんとこの大将がつぶれちまってのびちまってんだよ。拾いにきてくんねえか」
 やっぱり。
 苦笑と共に了解の意を告げアントニオは受話器を置いた。

 高田馬場商店連合会。
 探偵事務所が何故そんなものに加盟してしまったのか経緯は不明だが有限会社ダム・オックスはその名簿に名前を連ねている。石動本人に訊いてもまともな答えは返ってこなかったのでおそらく何かの手違いか勘違いによるものと思われるのだが。
 連合会主催の草むしりや駅前美化運動、秋には区民運動会、六大学野球応援団の結成。そんな“行事”には仕事を理由(それが本当であることは滅多にない)になるべく参加しないようにしている石動だったが(たまに思惑が外れて参加させられていることがあるが)、役員親睦会なる集まりには何故かちょくちょく参加していた。
 元々は八百屋や本屋、酒屋や理髪店、ラーメン屋などが並ぶ名簿に「探偵事務所」を加えた妙な男に興味が有ったのだろうが、どうもその妙さ加減が役員達(つまり商店街の店主達)に気に入られたらしい。特に役目があるわけでもなく、集まりに招ばれてはただ親睦を深めてくるのが常になっていた。
 石動にはどうも人好きのするところがあるらしい。

 今回の役員親睦会は広栄堂書店の2階で行われていた。諦め顔の奥方に挨拶をし2階への階段を上る。蛍光灯に照らされた板の間の廊下にふすまを通して酔っ払いの大声と光が漏れていた。
「こんばんは」
「おー、来たかアンちゃん」
「いつも悪いなあ」
「まあ、アンちゃんも一杯」
「馬鹿、てめえ、お迎えまでつぶしてどーすんだって何度も言ってんだろうが」
 いつ来ても楽しそうだ。アントニオは、わっと盛り上がった座を見回すがどこにも石動の姿がない。
「ウチの人は?」
「あー、もう完全に沈んじまったから一番奥の部屋で寝かしてるよ」
 広栄堂書店の主人が奥を指差す。
 微笑みながら軽く会釈を返し、奥の部屋を目指す。30センチほど開いたふすまから石動の左足のものであろう靴下がうすら闇に白く浮かんでいた。

 何か、ちょっとした違和感があった。
 人の気配。
 アントニオはそっとふすまに手をかけ、すべらせる。
 徐々に光の及ぶ範囲が広がっていく。
 石動の靴下からスラックスへ。そして彼の身体にふんわりと乗せられた見覚えのないパーカーへ。
 そのパーカーに、アントニオの目がほんのかすかだが細められた。
 次いで目に入ったのは、気持ちよく大の字になっている石動の右側に、片膝をたてて座っている若い男。
 まるで石動を見守るかのように。そしてふすまを開けたアントニオを真っ直ぐに見返した。
 自分の気持ちを覚らせることのないようアントニオはおだやかに微笑む。
「こんばんは」
「…どうも」
 無礼者ではないらしい。若者らしく一言呟くように言って軽く頭を下げた。
 何かスポーツをやっていたのだろう。座っていてもかなり上背があることがわかる。縦に長いだけでなく、細身ではあるが肩のしっかりとした体格をしている。
 アントニオはふすまを開けきって足早に部屋の中へ進む。石動の身体から“それ”を取り上げ、微笑んだまま若者に差し出す。
「これ貴方のでしょう?お返しします。申し訳なかったですね」
「…いえ」
 男らしく精悍で整った顔だちだが愛想はよくない。若者はぼそりとそれだけ言ってアントニオからパーカーを受け取った。

「おーい!吟次!」
 “役員親睦会会場”から顔を出した男が大声を出す。酒屋の主人の声だ。かすかだが若者が舌打ちする。
「あなたですか?」
「…すいません」
 若者は自身の傍らに有ったコーヒーの缶を手にむくりと立ち上がる。戸口で少し身を引いたアントニオと目を合わせることなくすれ違う。

 廊下を進んだ若者は“会場”へと消えた。酒屋の主人の声が一段と大きい。
「吟次!なんだおまえ缶コーヒーなんか飲んでやがって!こーいう時は、皆さんと一緒に酒を呑むのがマナーってやつじゃねえのか?」
「親父を迎えにきたんだっつってんだろ!車なんだよ飲めるかよ!」
 再び座がわっと盛り上がる。
「出来の悪い親父を持つと苦労するよなあ、吟ちゃん」
「店継いだらこんな親父放り出しちまえ」

 苦笑しながらため息を一つつき、石動の方へ向き直る。
 相変わらずの大の字。よくよく見ると両頬がうっすら上気したようにほんのりと赤い。半開きの唇。規則正しく上下する胸。
 本当ならこのまま覆いかぶさってキスでもしてやりたいところだが自重した。

「アントニオ…。水…」
「はいはい、少し待って下さい」
 覚束ない足取りながら、なんとかこのダム・オックスまでたどり着いた。
 自重したアントニオが、ぴしゃぴしゃと頬を叩き二、三度呼びかけたら石動はうっすらと目を開けた。一眠りして大分酒も抜けたていたようだ。
 とは言え、事務所のソファにへたりこむように座った石動はまだ頭がはっきりしないらしい。
 ミネラルウォーターを差し出すと半分近くまでをごくごくと飲み下した後、うつむいて深いため息をついた。隣に座り、その横顔を見つめる。
「なんか飲まされちゃうんだよなあ…。今後はちょっと考えないと」
「まったくです」
 突然きっぱりとそれを断定するアントニオの声に驚いたのか石動は顔を上げかけたが、そうはさせずに両腕ごとしっかりと抱き締める。
「あんなところで無防備に眠ったりしないで下さい。襲われたらどうするんです」
 さらにぎゅっと力を入れて抱き寄せ身体を密着させると、腕の中の石動はじたばたと逃げようとする。
「誰が襲うんだ、こんな」
「アタシなら襲います」
 抱きしめたまま耳に音をたてて口付けると石動は「ひ」と奇声を発して身を硬くするが、少し身を離して両手でそっと頬を挟む。
 さっきよりずっと頬が(というより顔全体が)赤く、これから起こることを予想してか、視線がうろうろと定まらない。それでも何か言い返そうとする唇を、ふさぐ為に顔を寄せる。

 酒以外の微かな香りがアントニオの鼻腔を刺激した。

 蘇る光景。
 気持ちよさそうに閉じられた瞼。うっすらと紅潮した頬。誘うように軽く開いた唇。規則正しく繰り返される呼吸。
 その傍らにいた、彼。

 蘇る音声。
 「こーいう時は皆さんと一緒に酒を呑むのがマナーってやつじゃねえのか」

 石動の唇から微かに嗅ぎ取れるのはコーヒーの香り。




 やられた。








ライバル登場。

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