密/室(仮店舗)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

■brander■

■アン石SS■

SSというより習作(あ、どっちにしろSSか)(誰が上手いこと言えと)かもしれません。
勢いのままに。

「UCC」で出てきたオリキャラ、酒屋の次男坊が出てきます。
オリキャラが苦手な方は回避して下さいますように…。


■brander■



 最近は自然に抱き合って眠るようになった。まるで猫が二匹で眠るように手足を絡めて。ぴったりと密着して。
 行為の有無に係わらず一緒にベッドに入るようになったのはごく最近の喜ばしい変化だ。
 左腕の付け根に呼吸を胸に感じるほどの近さで石動の頭がある。いや、近いというより、アントニオの胸に顔を押し付けて眠っているというほうが正しい。
 少し肌寒い晩秋の朝。朝というより既に昼に近いが、許されるなら石動が自然に目覚めるまで、腕の中の穏やかな寝息と体温を愛おしんでいたかったけれど―――それを堪能してはいられないようだ。
「大将」
 そっと頭の上から囁く。
「大将、起きて…。吟次さんがいらっしゃったみたいですよ」
 未だ眠りの沼から這い上がる気配の無い石動の丸い背中を右手で軽く叩く。
「…ん…?」
 なんとか覚醒した石動の耳元にもう一度囁く。
「吟次さんがいらっしゃったみたいです」
 「石動さん」という遠慮がちな声と事務所のドアを軽く叩く音が、やっと石動の耳にも届いたようだ。
「忘れてた…!」
 ベッドに手を付いて、石動はがばりと起き上がった。


**************************************


「ごめん、吟ちゃん、すっかり忘れてて…!今まで寝てた…!」
 事務所の中から急に人の気配がし、そんな説明がなくともそれとわかる風体の石動が飛び出してきた。髪には寝癖がついているし、格好もいかにも寝巻き代わりにしているであろうトレーナーとスウェット、そして裸足の足をスニーカーに半分突っ込んでいる。
「誘ってもらったのに、ホントにごめん、すぐ用意するから…。」言いながら、吟次を中へ誘うように身体を引いた。
 事務所には、こちらも寝起きの態といったアントニオが立っていた。寝起きの態と言っても吟次を見て穏やかに微笑みを浮かべる様子は常日頃と全く変わりがない。いかにも寝起き、という雰囲気なのは、やはり寝巻き代わりと思われるクタクタのフランネルのシャツにスウェットといういでたちだからだろう。
「今日は、どちらへ?」
 洗面用具を抱えて事務所を出て行く石動を目で追いながらアントニオは吟次に訊ねる。
「江戸川乱歩の蔵へ…」
「蔵?」
「蔵を改造した書庫なんですけど」
 足音が近付いたと思った途端にドアが開く。何か忘れ物でもしたのか事務所を横切りながら石動が応えた。
「探偵小説の巨人、江戸川乱歩の書庫だよ。予約すれば中を閲覧できるんだ。ぼくや吟ちゃんはどっちかっていうと横溝派なんだけど…」
「…はあ」
 曖昧にアントニオが頷くと石動は苦笑して
「おまえも日本語読めるようになればいいんだ。本格推理小説の系譜を一からレクチャーしてやるのに」
「お気持ちだけで結構です。あなたクドイから」
 ひどいな、と面白そうに笑いながら石動は再び出て行く。それを見送ったアントニオは吟次に向き直って、にっこりと笑い、
「なるほど、アタシは全く門外漢てワケですね―――。気をつけて行ってきてください」
 

「待たせちゃったね、吟ちゃん。本当にごめん」
 高田馬場駅へ向かう雑踏に石動の寝癖の直りきらない頭がひょこひょこと揺れている。石動は早足で歩いているが、その身長とストライドの差からか吟次は特に急ぐ必要は無かった。
「いや、まだ時間も有るし、全然…」
 改めて見直した石動の顔の、異状に気付く。
「石動さん」
「ん?」
「あの、顔に」
「顔?」
「あとが」
 石動の左の頬にそれは見事な寝跡が有った。
「ええ、いやだなあ、もう…、そんなにすごいかな?」
 石動は立ち止まって眼鏡を外し、少し顔を赤らめて自分の顔をぺたぺたと触った。本当に無防備な人だ、と微笑ましく思いつつ、
「結構しっかり…」ボタンの跡がついてます、と言いかけて、吟次の心臓が跳ねた。

 脳裏を過ったのは、クタクタのフランネルのシャツ。

 思わず石動の事務所の窓を振り仰いだ。 


**************************************


 これくらいの意趣返しは許されるだろう―――。
 連れだって歩く石動と吟次を四階の窓から見下ろしてアントニオは考えた。
 ひょこひょこと揺れていた石動の頭が止まり、やがて吟次がこちらを仰ぎ見た。石動や吟次の位置から窓の中が見えるかどうか定かではないが、ひらひらと手を振ってやる。


 あの青年は気付いただろうか? 


 期せずして押されたささやかな所有の印に。 




 END.

 おまけがあります。

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。