密/室(仮店舗)

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■All is fair in …■

■アン石SS■

UCC」「brander」に出てきたオリキャラ、酒屋の次男坊が出てきます。
苦手な方は回避回避!


■All is fair in …■



 平成二十一年、元旦となった。
 有限会社ダム・オックス代表取締役石動戯作とその住み込みアルバイトで助手のアントニオは、高田馬場商店連合会の新年祝賀会に参加するべく、会場である広栄堂書店の二階を目指していた。
 対応に出てくれた奥方も、いつもより少し華やかな装いで、いつもと違い大歓迎の態で二人を招きいれた。やっぱりお正月というのは皆妙に明るくなるものなのかな、と石動は考えた。まあ、誰かと顔を合わせるたびに「おめでとうございます」と声を掛け合っていたら、実情はどうあれ、心も明るくなるものかもしれない。尤もアントニオの入れ知恵で渡したちょっとした菓子折りが効いたのかもしれないが。

 二階の座敷はいつもの親睦会に輪をかけて賑わっていた。普段亭主たちの集まりになど無関心な奥方も何人かは顔を出して、なにくれとなく立ち働いているし、そのおかげで酒の肴に事欠く心配のない旦那連は天下泰平の態で幸せそうに酔っている。
「あれ?十九時開始ってうかがってたんですが…」
 今はまだ十九時半になろうかという時刻だ。座りながら石動がそう言うと、連合会の中では下戸で知られる広栄堂書店の主人が諦めたように笑いながら、持ち上げたビールのコップでぐるりと座を示し、
「こいつらは晦日から呑みっぱなしだから」
 石動の来訪に気付いた何人かが座敷のあちこちから声をかけてくる。
「ああ、どうも…。ハイ、今年も宜しくお願いします。ええ、今日は助手も連れてきました。ほらアントニオ、ちゃんと立って挨拶を…」
 石動が言いかけると、座敷の奥から声がかかる。八百正の主人だ。
「アンタがつぶれた時に毎回来てもらってて、もう俺たちとは馴染みなんだ。今更挨拶なんか要らねえよ、なあ、アンちゃん」
 え、と言葉につまり隣のアントニオに向き直る石動の様子と、困ったように微笑むアントニオの様子を見て、座が沸き立った。

 決まり悪く黙り込んだ石動とくすくすと笑い続けているアントニオの前に、気働きの利く奥方たちが新しいコップや肴を並べてくれる。忙しく会釈やお礼を返していると、セーター姿の若者が隣に座った。
「おめでとうございます」
「あ、吟ちゃんおめでとう。今年もよろしくね」
 石動が言うと長身の若者ははにかむように笑い、数冊の本が入った紙袋を差し出した。
「これ…ありがとうございました」
「あ、読んだ?後期クイーン問題はなかなか興味深いだろ?」
「そうですね…。これを読んだら、九十九十九の出現そのものに意味が有ったのがわか…」
 そのまま現代ミステリ談義に花が咲くかに思われたが、それは突然石動の背後で起こった喝采によって中断された。
「おお、いい飲みっぷりだな!」
「二杯目もビールでいいか?焼酎もあるけど…」
 やんやの喝采の中心はカメラ屋の主人に注がれたビールを一気に飲み干したアントニオだった。それを見た石動が慌ててその輪に割り入り、
「飲ませたんですか!?こいつに!?ビールを!?」
 その剣幕にアントニオを含めた数人がきょとんと石動の顔を見つめた。



「悪いな、まさかこんなに酒に弱いなんて思わなかったからよ」
 アントニオにビールを注いだカメラ屋の主人が申し訳なさそうに頭を掻いた。
「それにしてもぐでんぐでんだな。こういうのなんていうんだ?抱きつき上戸か?」
 隣から文房具屋の主人がまぜっかえす。
「そういうのはおねえちゃんのいる飲み屋で発揮すりゃあいいのになあ」
「いや、ビール以外なら全く大丈夫みたいなんですけど…。こら寝るなアントニオ!おまえを抱えて帰るなんて芸当、ぼくには出来ないぞ…!」
「寝てません」 
 のっしりとかかってきた体重に、石動が自身の背中を軽く震わせて牽制した。アントニオは石動の背中でうっとりと目を閉じている。両手をしっかりと石動の腹に回し、立てた両膝の間に石動を抱きかかえるようにして。
 後ろから抱きかかえられているだけで、会話に支障はないから、石動は吟次とのミステリ談義を楽しんだ。若いのに国内外の古典も読み込んでいるし、知識も豊富だ。石動は学生時代ジャズ研に所属していたため、こういったミステリ談義に花を咲かせる相手がいなかった。吟次の方も学生時代は運動部に所属したせいでミステリを語る相手がおらず、石動の存在を喜んでくれているようだ。
「横溝の最高傑作はやっぱり「獄門島」だと思うんだ、ぼくは」
「そうですね…。俺は「悪魔の手毬唄」も好きなんですけど、ミステリとしての骨格は「獄門島」の方が…」
 そんな話をしていると、またぞろ、背中にかかる体重が重くなる。反射的に石動は背後に向かって声をかけた。
「こら!」
 今までよりも激しく背中を震わせてみたが、アントニオの返答はこれまでになく緩慢なものになっていた。
「…寝てないです…」
 そう言って鼻先を石動に背中にこすりつける。完全におねむの子供じゃないか。石動はため息をついた。


 泊まっていけ、という広栄堂の主人の申し出や、「俺たちが担いで運んでやろうか」という祭りの神輿か何かと勘違いしているともとれる酔っ払いの戯言を丁寧に固辞し、石動はコートを着込み、すっかり弛緩したアントニオを叱咤しながらパーカーを羽織らせ、身支度を整えた。
「ほら、しっかりしろ、アントニオ…。ちょっと顔洗ってこい、ちゃんと自分で歩いてくれよ」
「…はい」
 どうにも覚束ない、ふわふわした足取りながら、アントニオは示された洗面所へと向かった。ひとまず自力で歩けるようだから、後はここの階段と事務所の階段だけが問題だな、と石動は算段した。

 蛇口を開き、冷たい水を手のひらで受け止める。少しの覚悟を持って、手のひらに溜めた冷水で何度か顔を洗い、その冷たさに思わずため息をもらした。顔の周りの髪から雫が落るのが目に入り、ふと、目の前の鏡の中の自分の顔を見つめる。この冷水のおかげで、少し覚醒したように見えるだろうか―――?手のひらで水滴を拭いつつ、アントニオはひとりごちた。

「酔っ払ったふりってのも疲れるな―――」


END.


冬コミ発行のチラシで予告した「新年会ネタ」小咄でした。
元ネタは青木光恵さん著の4コマ「女の子が好き!」の由美ちゃんですね。

アントニオが策士ですみません。というか策士アントニオが好きですみません。


 

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